2020年秋からの #CoworkingDays (コワーキング・デイズ)が開始から半年を迎えた。コワーキングを誰かの特殊なものではなく、身近な存在にしてもらうための試み。短期間で劇的に変わるものではないが、これを通じて起こった変化をこの機会にまとめてみる。

 

はじめに

この文章の著者は、PAX Coworkingのファウンダー。2010年夏に東京初のコワーキングとしてPAX Coworkingを世田谷区経堂(パクチーハウス東京の3階)に創設。コワーキングの黎明期からCoworking Asia Conference(2013年、東京)の実行委員やWorld Wide JELLYWEEKのAmbassador in Asiaなどを務める。同時期、全国の自治体にてコワーキング関連の講演多数。2012年5月『つながりの仕事術 コワーキングをはじめよう』を共著で上梓。同年11月同書の英語版『Working As Partying: Let’s Start Coworking』を電子出版。

PAX Coworking本部は2019年10月より鋸南町(千葉県安房郡)に移転。グループ店舗が高浜町(福井県大飯郡)・五反田(東京都品川区)・奥三河(愛知県新城市)にある。

 

黎明期

今でこそ、コワーキングの文字が注釈なしでメディアで使用されるようになっているが、PAX Coworkingを創設した10年前はコワーキングという単語の知名度はほぼゼロだったし、その意義を理解する人は極めて少なかった。他人・異業種の人と机を並べること、コミュニケーションが新しいアイデアを産むことの素晴らしさを実感できなかったのだと思う。

コワーキングは「Co」(一緒に・共同して)「working」(働く)という意味を持つが、最初の半年は「孤(独)ワーキング」というような日が多かった。打開策としてJellyというイベントを開催。Jellyはコワーキングのもとになる概念で、それぞれの仕事を持って一箇所に集まることを意味する。体験前は、「異なる仕事を一緒にやってどうするの?」と疑問に思う向きが多いが、アイデアを交換し、第三者的な視点で評価を受ける価値に参加してすぐに気づく人は多かった。口コミで、次第に全国から尖った起業家が集まるようになった。

ニューヨークでコワーキング界を代表するトニー・バシガルーポ氏が来日した際、声をかけて日本初のコワーキングイベントを開催した。釣り広告気味にイベントタイトルに「ニューヨーク発」「働き方」というキーワードを並べたら24時間以内に100人以上の申し込みがあった。トニーの前座で僕がコワーキングとJellyについて講演。これ以降、先進的なメディアがちょくちょく取材の依頼を送ってくるようになった。

 

成長期

2012年ごろ、PAX CoworkingでJellyを体験した人が次々とコワーキングを設立。コワーキング設立希望者の見学が多い時で週50人にも上る時もあった。2013年に入ると、気づかないうちにコワーキングができるようになり、2014年には訪問しきれないほどコワーキングが増えた。企業や自治体が「新しい働き方」としてコワーキングの講演を頻繁に求めた。

2017年にはコワーキングという単語が注釈なしでメディアに踊るようになった。利用したことがなくても、聞いたことがあるという人が増えた。その翌年ごろから、多くの自治体がいまさらようやくコワーキングに注目し、新規事業者に助成金を出すようになった。

コワーキングの特徴であり長所は「コミュニケーションがあること」だが、絶対数が増えるとプライバシーや秘密を守ること、静かであることに価値を置く、コワーキングの定義から離れるスペースが増えたのも確かである。

 

鋸南に来て

2019年10月にコワーキングとアーティストインレジデンスなどの複合施設として鋸南エアルポルトをオープンして、そのコワーキング部分をPAX Coworkingとした。施設について問われた際、アーティストインレジデンスについては「アーティストが制作できるスペースがあり」と説明し、コワーキングは知らない方もいるがなんとなく知っているためか深く問われないことも多かった。地元の方は、口に出しては言わないけれど「自分には関係ない」と思っているようだった。

東京その他からさまざまな仕事をする人が訪れている。地域の人との接点を作り、徐々にコワーキングの良さを知っていただこうと思っているが、その接点を作ることがなかなか難しいと実感した。声をかけ、夜の飲み会に来てくださる方はそれなりに増えたが、昼にふらりとやってきてくれる方は少ない。

 

コワーキングの価値は余白

仕事場に遊びに行ってはいけないという観念が強いのだと思う。パソコンを使って仕事しない人は、したがって入りにくいのだ。こう思っていることは容易に想像できる。しかし、コワーキングの価値は余白にある。仕事をしながら違うことを考えてしまうことがあるだろう。その妄想が、次のビジネスのアイデアになることは多々ある。根を詰めて仕事をする日々ばかりではない。空いた時間に誰かと会話することが価値となる。コワーキングはそれを生む場所だ。

仕事をしていない人がいると、コワーキングは盛り上がる。お茶を飲んでいたり、本を読んでいたり、絵を描いている人が視界に入ると、それぞれの持つ余白が変化する。仕事を止めて椅子から立ち上がる。そして会話が始まる。

 

ビジネスミーティングは目的がしっかりしている。相手との損得を考える場だ。相手に対して、閉じている。コワーキングの会話は逆だ。相手に関心がある。行為に対する好奇心がある。会話の中に興味深いものを見つける。それに自分の考えを付加する。やりとりが、新しいアイデアを産む。

仕事を主な目的にしている人だけでは、場が発展しない。鋸南エアルポルトは、アーティストの制作の場を設けることで、全然違う視点を持つ人を存在させる工夫としている。リラックスした人がもっといるといい。仕事中、移動の空き時間にちょっとおしゃべりをしに来たり、仕事をしていないご老人がソファーに座ってくれるとありがたい。

 

#CoworkingDays の目的

仕事しにくるだけの人はコワーキングにいらない。鋸南という地で仕事する以上、土地の人や自然、空気からめいっぱい刺激を受けてほしい。

海まで3分、山まで20分。メリハリのあるワークスタイルを確立している人が、出入りする場となっている。鋸南や周辺の人の魅力がここに加われば、それぞれの仕事の幅が広がるのはもちろん、鋸南の未来に面白い影響が生じると思う。

とにかく興味のありそうなテーマがあれば足を運んでください、というのが僕らの思いだ。たまたま集まった人が、価値を創っていく。予め予想はできないが、偶然の産物が必然的に生まれることを多くの人に知ってほしい。体験してほしい。鋸南や南房総のフツーの人が出入りする空間を目指している。

いつでも来てください! 誰でもウエルカムなつもりで開けているけれど、それだとタイミングが掴めないという声を聞いて、日にちを決めた。それが #CoworkingDays だ。曜日で決めてもよかったのだけど、人によっては特定の曜日が来れないこともあるというので、曜日が流動的になるよう、毎月8と9が付く日とした。つまり、毎月8日・9日・18日・19日・28日・29日だ。

 

#CoworkingDays のイベント(2020/10-2021/3)

<講演・ワークショップ・ディスカッション>

・コワーキングとJellyに関する講演
・ウガンダ「Kira Koya Rd.」原画展+トークライブ
・旅話会
・鋸南の未来を語る新年会
・Clubhouse講座
・肩書きを自分で創るワークショップ
・きいろとみどりのトークライブ

<DIY>

・縄文土器作り
・ビーチコーミング+作品づくり
・看板作り
・竪穴式住居作り
・掘りごたつ+ステージ作り
・障子貼り
・キャンドル作り

<食べる>

・BBQ
・エクストリーム流しそうめん
・餃子作り
・無限おでん

<スポーツ・遊び>

・卓球大会
・鋸南散歩
・コリドール大会
・スカッシュ
・鋸山縦走チャレンジ
・スーツで鋸山縦走チャレンジ

 

<講演・ワークショップ・ディスカッション>は、テーマにより数名から多数の地元民が鋸南エアルポルトに足を運んでくれた。時節柄(COVID-19)オンライン開催または併用開催したことで、鋸南外の人がバーチャル参加したり、オンラインで地元民と会話したりという機会があった。参加のハードルも低いので、今後も開催したい。

館山在住のアーティスト・吉良康矢さんがウガンダの風景の一筆書き展を開催中に行ったトークライブは、安房地域から多数の来場があり、また、コワーケーション利用も多く、大いに盛り上がった。ほとんどの人は終了後にすぐ帰ったためイベントスペースの1つとしか認識されなかった可能性も高いが、中には場所自体に興味を持つ人もいて、その後何度か遊びに来てくれることもある。

Clubhouse講座では、日本で広まり始めたばかりのサービスについて解説した。緊急事態宣言中だったので主にオンラインで行ったが、鋸南在住の青年がオンラインで他の参加者と交流し、終了後に本人の事業構想について、鋸南の未来を交えて語れて有意義だった。

 

<DIY系>は、外からの参加がほとんど。竪穴式住居作りを目指して来る家族連れが何組かいて、また、普段仕事で来る人が家族を連れてDIY系のイベントに参加することも多い。地域との接点のあるイベントにするために、地元の人に参加してもらうよう声をかけたり、講師役をしてもらうなどしたい。

DIY系の半分は鋸南エアルポルトの設備をつくるものだが、看板のように多くの人が見るものができたり、自分たちで利用するこたつを作るのは満足度が高かったようだ。いつもしない作業ができることにもエンターテイメント性を感じる。

 

<食べる>

食事系は内外の人から人気があり、交流の要になりうる。新型コロナウイルス対策の関連で積極開催ができないことが嘆かわしいBBQ。や流しそうめんは長狭街道に面したところで開催することにより、参加しない人、イベントの存在すら知らない通りがかりの人にも魅せるインスタレーション的な要素を持たせている。

 

<スポーツ・遊び>

#CoworkingDays が土日に重なったときによくやるイベント。鋸南だからこそできる/やりやすいものを選んで外の人を引き付けたい。また、これもDIY系と同様、地元の方々が率いるか、一緒に楽しんでもらえるような流れを作りたい。

釣りや水系のスポーツのインストラクターも近くにいるので、これからの時期に計画する予定。

 

主に告知はSNSを利用しているが、地元民への呼びかけは直接の声がけが最も効果的。イベントをしているが、イベント専用の場所ではなく、いつでも立ち寄ることで何かが生まれるという状態を確立するために、#CoworkingDays を継続していきたい。

 

安房地域のコワーキング

館山の南極スペースのほか、2021年になってから南房総市にMISHO Stationができ、また初夏以降に平群クラブハウスがコワーキングを始める。コワーケーションの推進を含め、スペース間で連携すれば、来る人の満足度も上がり、安房地域のコワーキングが盛り上がるだろう。