coworking か co-working か。

いまだにその話題が出ることがあるが、実はこの問題にはすでに決着がついている。コワーキング・ムーヴメントを起こした世界中のパイオニアたちが、2010年に世界共通のメーリングリストを通じて結論を出した。co-workingではなくcoworkingであると。

同じ頃、日本で初めてコワーキングを作ったカフーツの伊藤さん、PAX Coworkingの最初のメンバー(そして日本のコワーキングの初めてのメンバーでもある)松田さん、PAX CoworkingのJellyに参加してくれた人たち、コワーキングは面白そうだと見学に来てくれた人たちとも、世界の動きに合わせて結論を出した。コ・ワーキングではなくコワーキングであると。

初期の頃、アメリカなどではcoworkingは「Cow or King」(牛か王様か)などと揶揄されたし、日本でも「怖〜キング」と言う人がいた。それぞれが言葉として定着したのは周知の通りだが、最初は違和感を持つ人が多かったのは確かだ。でもその新しい概念を定着させようと、世界で、日本で、多くの人が努力をしてきた。

Coworkingは接頭語の「co」(一緒に)と「working」(働く・うまくいく)を組み合わせた造語である。一緒に働く場所という意味だけであれば「co-working」でもよいかもしれない。しかし、コワーキング界を率いたパイオニアたちは、そこで起こる予想をはるかに上回る面白い出来事の数々をコワーキングの価値であると認識した。一緒に(co)そこにいるだけでなく、そこで生まれたコミュニケーション(communication)、会話から生まれた新しいビジネスなどのコラボレーション(collaboration)、そして人と人とが会話をすることで発見されるコインシデンス(coincidence=偶然の一致)など、さまざまな〝co〟を概念の中に取り込んで行ったのだ。(『コワーキングを始めよう』第1章参照)

つまり、コワーキングはこれまでの仕事の仕方と全く違うものであるし、そういう世界観を作ろうと世界中のパイオニアたちが協力し合って作った新しい概念なのである。同僚を意味する「co-worker」という単語は古くからあるが、僕らがやろうとしていることは単に席を並べる会社の同僚のような関係性にとどまることはないし、これまでのシェアオフィスのようにシェアと言いながら空間を断絶するようなことでもない。仕事をし、会話をし、互いの人生に影響を与え、結果として地球の未来を変える。そのための行動と意志がコワーキングなのである。

というわけで、僕たちはずっと、コワーキング/coworkingと書き続けている。Coworkingにはハイフンをつけないんだということを訴えるためだけのウェブサイト(https://doescoworkinghaveahyphen.com/)も約10年前から存在している。Indy HallのAlex Hillmanが作ったものだ。

ここで暴露話を。日本では僕たちは、「コ・ワーキング」と書きたがる記者を牽制し、初めて取材を受けたときから「コワーキング」と表記してもらうことに成功した。一方で、「co-worker」という表現のある英語圏では、ほとんどのジャーナリズムはAP-stylebookに準拠しており、それがco-workingという書き方をしていたため、強い抵抗にもかかわらず不本意ながらco-workingと書かれ続けた。それに対して各人が弁明をするような状況が続いていた。

2018年10月4日、多くの人の訴えが奏功し、AP-stylebookはようやくその表記を改めることにした。

 

PAX Coworking Group ファウンダー
PAX abc プロデューサー
佐谷恭