毎週、一冊の本を取り上げながら好きなことや気になっていることをこうして書いている訳ですが、大体は「翌週はこれを取り上げよう」と事前に決めています。今回も先週の段階で決めていて、過去に読んでいる本でありながら改めて読み直し、皆さんに紹介するポイントをチェックしています。が、今回はいろいろな切り口があり、どうまとめるかが凄く悩んだ作品です。本としての作品レベルは申し分ないのですが、あまりにも良すぎてどう伝えるか悩んでいます。ということで、その辺をくみ取って読んでくださいね。

今週もBookbiz Wednesday担当の大塚が案内します。

 


"自分の仕事をつくる (ちくま文庫)" (西村 佳哲)

■仕事ってなんだろう

実は僕は大学に入学が決まった段階で大学生活の過ごし方を考えていました。いくつかやりたいことがあり、残念ながらその中には「勉強する」ということは含まれておらず、一番優先度が高かったのは「貴重な4年間にたくさんの人に会いたい。それもバイトを通して」というルールを設定しました。将来、大学を卒業して就職することは理解していて、人生の中で仕事をしている時間(期間も一日に於ける拘束時間も含めて)が長いわけだから「仕事をする」ということを身体で理解したいと考えていました。だから、バイトはある一定期間で違うものをしていこう、というのが当初の計画でした。実際には多くの時間を販売員として過ごす結果にはなりましたが。

高校終盤になぜこう思ったのかと言えば、振り返って考えると多くの人に「仕事」や「仕事観」、「働く意義」などを聞きたかったから、なんじゃないかと思っています。自分の中に答えがあるわけではなく、いろいろな人に話を聞きながら自分の中に答えを作っていく作業をしたかったのだろう。

本書はほぼ同じようなことを実際にその道の達人(?)のような人にインタビューをしてまとめたものです。著者の西村佳哲さんの肩書きは『働き方研究家』。そのインタビュー先も半端じゃなく、世界各地に飛んでいってインタビューをしている。僕の中ですごく印象的だったのはドラフトの宮田さんのインタビュー。ドラフトはデザインの会社みたいだけれど、最初のページのこの言葉は心に刺さりました。

「僕はアシスタントは募集していない。デザイナーを雇っているわけだから、彼らにデザインをさせなければと思うわけです。

その人が光る仕事をね。

みんな、それぞれの夢や希望があって、できれば一から十までやりたいような人たちです。若い時の自分もそうだった。そんな人を迎える以上、いい仕事をさせる仕事をさせる責任があるし、デザイナーとしての自分の立場も変えていかざるを得ない」

ここの会社のWebサイトに「PHILOSOPHY」というタブがあるので読んでみてください。

■本をどう読むか

実は先に書いたドラフトの宮田さんのインタビューの部分は最初に読んだ時にまったく付箋を貼らなかった部分なんです。僕は極細の付箋をしおりに貼り付けておいて、気になる文章には付箋を貼るようにしています。だけど、このインタビューには貼らなかった。もちろん、ここで紹介するぐらいなので、他の部分にはいっぱい貼っています。今回、読み直して過去に付箋を貼った部分ではなく、ここが紹介ポイントになった。つまり、この本は自分自身が置かれている立場や経験値によってすごく受け取り方が変化するものなんですよ。

例えば、別のインタビューではアウトドアブランドのパタゴニアのスタッフにインタビューをしていて、このインタビューを読んでこの本を買いました。


"あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実" (ピエトラ リボリ)

 

またIDEOのエンジニアのインタビューを読んで、この本を読みました。


"発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法" (トム・ケリー, Tom Kelley, ジョナサン・リットマン, Jonathan Littman)

 

そう、この本は内容だけではなく、いろいろなものに対する興味付けをしてくれるので読み手の興味の幅をどんどん広げてくれる効果をもたらします。

 

ね、どう紹介していいか悩んでいた意味が分かったでしょう?

仕事という切り口ですが、自分自身を棚卸しできるきっかけになると思うので是非ご一読を。