数年前から書店のビジネス書の平台に並び始めた「大学の先生が書いたビジネス書」というジャンルがある。その先駆けはハーバードのマイケル・サンデル教授の作品だろう。本だけではなく、NHKでも放送されたので本は読んでいなくても映像で知っている、という人もいるのではないでしょうか。

Justice: What's The Right Thing To Do? Episode 01 "THE MORAL SIDE OF MURDER"

まあ、本に限らずどんな業界もヒット作があると2匹目3匹目のどじょうを狙った営業戦略はあり、今日紹介する本もそんな風に見られているかも知れない。『未来を発明するためにいまできること スタンフォード大学 集中講義II』は「II」となっているように、前作『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』の二作目という位置づけで出版されている。が、この本だけを読んでも十分に内容を理解できるし、むしろ今回の方がより具体的な内容が書かれているので前作よりも良い作品に仕上がっていると思う(前作は自己啓発色が強くなっている)。

ということで、ネタバレにならない程度に紹介していこう。今週もBookbiz Wednesday担当の大塚が案内します。


"未来を発明するためにいまできること スタンフォード大学 集中講義II" (ティナ・シーリグ)

 

■「イノベーション」って?

この本にはいたるところに「イノベーション」や「クリエイティビティ」という言葉が出てくる。一見、仕事で企画系の担当をしている、あるいはプロジェクトの責任者やリーダー向けに思われるかも知れないが、この一節を読むとそうでないことが伝わるだろう。

クリエイティビティがなければ、繰り返しの毎日に押しやられるばかりか、後ろ向きの人生に陥りかねません。じつは、人生における最大の失敗は、実行しないことではありません。想像力をはたらかせられないことなのです。

どうです?「イノベーション」や「クリエイティビティ」は仕事のためではなく、人生を楽しむための要素なんです。って書いてしまうと、ここで終わっちゃいますよね。もう少し先を続けますね。

この「イノベーション」という言葉はなかなかロジカルに説明することが難しいと思っています(僕だけかも)。でも、著者であるティナ・シーリグ先生は上手に説明してくれています。「イノベーション」が発生するコアに「イノベーション・エンジン」があり、その中身を次のように分解しています。

イノベーション・エンジンの内部は知識、想像力、姿勢の三つで構成されます。

  • 知識は、想像力の燃料です。
  • 想像力は、知識をアイデアに変える触媒です。
  • 姿勢は、イノベーション・エンジンを動かす起爆剤です。

イノベーション・エンジンの外部は、資源、環境、文化の三つで構成されます。

  • 資源とは、あなたが所属するコミュニティに存在するすべての資産です。
  • 環境とは、家族や学校、職場など、あなたが過ごす場所を指します。
  • 文化とは、あなたが所属するコミュニティの集団的思考、価値観、行動様式を指します。

なんとなく分かったようなそうでないような気分ですか?
では、こう考えてみてください。会社の中で何か新しいことを始めようとした時に思うように進まないことってありませんか?上のイノベーション・エンジンの外部の文化をチェックしてみてください。前例主義の行動様式などはありませんか?

 

■視点を変えるということ

第1章からすごく具体的な話が出てきますが、最初の触りの部分だけ紹介しましょう。

問いの立て方を学ぶことは、答えの幅を広げることであり、想像力を伸ばすうえで特に重要です。そしてそれは、経験を積めば自然とできるようになります。このスキルを磨くのに役立つのが、写真撮影です。

これは第1章の「革命を起こす リフレーミングで視点を変えよ」の最初に出てくる言葉です。これは僕もすごく同感で、写真を撮ることが趣味になってからプレゼン資料などの見せ方がガラリと変わりました。見せ方が変わると自然とそこにストーリーが生まれます。結果、ほぼ失敗のプレゼンがなくなりました。

僕はよく「分数の分子を変えるんじゃなくて分母そのものを変える」って表現を使います。その業界の常識に囚われてあれこれ考えるのは「分子を変える」レベルで、全く違う業界の視点で見つめることで「分母を変える」ことができます。

もう少し先に進むと「あえて制約条件を決めて思考の拡散を制御する」考え方が登場します。こちらも考え方だけではなく、いろいろな実験を通してその有効性を証明しているのがその辺のビジネス書のアプローチと大きく違うところ。

どうです?面白そうでしょう。仕事の中でどう企画力や発想力を育んでいこうか、という見方ではなく、「人生を楽しむため」にティナ・シーリグ先生の話を聞いてみませんか?