Bookbiz Wednesday担当の大塚です。

先週の約束通り、今週は『マニフェスト 本の未来』の中身について書いていきたいと思います。


"マニフェスト 本の未来" (ヒュー・マクガイア, ブライアン・オレアリ, アンドリュー・サヴィカス, ライザ・デイリー, ローラ・ドーソン, カーク・ビリオーネ, クレイグ・モド, イーライ・ジェームズ, エリン・マッキーン)

■コンテキストとは…

まず本書は3つのテーマ、27の論文から構成されています。テーマは、

  • セットアップ—現在のデジタルへのアプローチ(7論文)
  • 将来への展望—本が歩む次のステップ(9論文)
  • 本ができる実験—最先端プロジェクト(11論文)

になります。最初の論文である「コンテナではなく、コンテキスト」は本書を読み進める上で重要な言葉の定義でもあるのでていねいに読んで欲しい。僕がハイライトした部分は他の人もハイライトしているのでみんな気になった部分なのだろう(Kindleの良さはこういう部分の共有機能があるところ)。

本書でのコンテキストとは「文脈」ではなく、私たちがタグ付けコンテンツ、取材ノート、注釈入りリンク、ソース、BGM、バックグラウンド、ビデオなどと呼んでいる。ある本の内容を取り巻くある種の「環境」のことです。

ここだけを切り出すと分かったような分からないような文章だけど、要するに本を作るプロセスで生成される(実際にはそぎ落とされた)部分を指している。インタビューを受けたり、逆にインタビューをしたりした経験がある人であればピンとくると思うが、膨大な量の情報の中で実際に使われるのはほんの一部でしかないことを知っているだろう。それは物理的な「本」(本書ではコンテナと表現している)という制限によってもたらされた結果なので、ある意味では当たり前と思っているかも知れない。しかし、電子書籍(紙を電子化する意味ではなく、真の電子書籍という意味で)のメリットを十分に活用することでそれらの制約はなくなり、従来であればそぎ落としていた『コンテキスト』もコンテンツとして提供することができるのである。そういう意味では、現在の電子書籍のほとんどはコンテナの制約を受けたコンテンツであり、コンテナのタイプが変わっただけと言えるだろう。その答えはこう記している。

つまり完成品を紙の本と決めるのではなく、それを任意に選択できるものだと考えない限り、既存の出版社は新参者に勝てないと思います。

正にクレイトン・クリステンセンが10数年前に提唱した「破壊的イノベーション」である。

余談だけど、2009年に佐々木俊尚氏が書いた「2011年新聞・テレビ消滅」も「コンテンツ」、「コンテナ」、「コンベア」でメディアを表現しているので振り返りで読んでみるといい。今は2013年だけど新聞もテレビも普通に存在しているけどね。

 

■UserExperience

仕事柄ブレット・サンダスキーの「ユーザ体験、読書体験」という論文は興味深く読んだ。序盤に「ユーザ体験」の定義が書かれていて、

ユーザ体験は、製品の最初の考え方から始まって、製品開発チームの方向性の決定、マーケティングの定義、発売後の初期評価、カスタマーサービス、エンドユーザーとのやりとりにいたるまで、製品すべてを網羅する。ユーザー体験は、社内、社外の両側で相互作用を整理、統合し、ユーザーのために使いやすい製品を開発し、それを維持していく。

こう考えると、ユーザー体験とは究極的な意味でデータに基づいた選択肢を提示することだと見えてくる。

と説く。少し違った角度からいうと、各フェーズでのコミュニケーションは客観的に評価ができるように可視化すべきであり、可視化して評価できないものはユーザの読書体験は把握できない。つまり、「電子書籍であり、エンドユーザーと直接コミュニケーションができなければ真の読書体験を知ることができない」ということになる。ここで重要なのは販売後のユーザーの利用状況を把握できるかどうか、という点。逆にいうと、この部分を制するものがこれからのキープレイヤーになるともいえる。

 

こんな論文がたくさんの「コンテキスト」付きで読んでいけるわけです。ね、この本は電子書籍で読まないと本当の価値が分からないでしょ?

是非、アプリ版でもいいからKindleで体験してみてください。でも、iPhoneやAndroidケータイだと厳しいかなあ….