エマーソン・レイク&パーマー(ELP)「Tarkus」

そう、「平清盛」です。兵庫県知事さんに汚いと怒られちゃったアレです。毎週しっかりご覧になってる方も多いはず。で、ドラマの劇中曲として流れてくる何とも攻撃的なあのフレーズが「Tarkus」です。オープニングクレジットでも「挿入曲『タルカス』キース・エマーソン、グレッグ・レイク」と流れているので、「なんじゃこりゃ?」と思った方もいらっしゃるはず。今回はこの曲とその背景をちょっとだけご紹介します。


「Tarkus」は、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)のセカンドアルバムとして1971年にリリースされました。当時全盛だったツェッペリンやビートルズをさしおいてアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得するという快挙を成し遂げた名盤です。そしてこのアルバムの表題曲が20分を超える超大作「Tarkus」。
印象的なジャケ絵の戦車と豚とアルマジロのあいの子みたいなのが「タルカス」。この子が火山の中から現れて、破壊の限りをつくすのだけど、やがて魔獣マンテイコアとの一騎打ちに破れて寂しく海に帰っていく…というなんとも摩訶不思議な音楽物語です。

ELPは、キーボードの(というかムーグの)キース・エマーソン、ベース&ボーカルのグレッグ・レイクそしてドラムのカール・パーマーの3人が1970年に結成したバンド。結成前から3人はそれぞれ高い知名度と人気を得ていたスーパーミュージシャンだったので、デビュー当時から「スーパー・グループ」と呼ばれていました。まさに超絶技巧を誇る強者集団だったのです。
特に印象的なのがキース・エマーソンのムーグ・シンセサイザー。
エマーソンは、それまでスタジオの多重録音用機材程度にしか使われていなかったシンセサイザーをステージ上に持ち込んでライブ楽器として表舞台に引き上げた先駆者。その彼が、狂気のスーパープレイを繰り広げます。
当時としてはあまりに突飛で驚異的な楽想だったため、片腕のグレッグですら初めてエマーソンから構想を打ち明けられた時には「ソロでやれば?」と言い放ったという逸話が残っています。
リリースされたアルバムは音楽界に一大センセーションを巻き起こし、一気にチャートを駆け上がります。全英1位をあっという間に獲得し、バンドとしてもメロディー・メーカー誌の人気投票で首位に躍り出るという快挙を成し遂げたのです(それまで不動の首位だったツェッペリンを押しのけて!)。ただの「新しいもの好き」ではなく、突飛とも思える発想でも確実にカタチにできる超一流の演奏技術があったからこそ成し得たのだというところはポイントかもしれませんね。

この時代、音楽業界は「戦国時代」へと突入しつつありました。
60年代までの「幸福感に溢れたお行儀のいいサウンド」は徐々に敬遠され始め、世相を反映した「混沌」が既存の価値観を破壊しつつあったのです。ツェッペリンやパープルに代表される「ハードロック」やジミヘン伝説を生み出した「サイケデリック」など、新しい様式が続々と生まれた時代です。
ELPもそして、そのような「破壊と創造」の流れの中から生まれた様式であり、彼らのような卓越した演奏技術と高い音楽性を兼ね備えた先進的・実験的な様式は「プログレッシブロック」と呼ばれるようになります。いわゆる「プログレ」の誕生です。

このプログレの世界の大きな特徴、それは「人と様式の流動」だと私は思います。
つい最近、ネット上でこんなページを見つけました。

「女子カーリングのプログレッシブ・ロックな世界」

こちらのページでとても分かりやすく解説しているプログレ界の特徴、それは「離合集散」です。
メンバーが出たり入ったり、バンドが解散したり再結成したり…本当に目まぐるしく変化していきます。ELPも例外ではありません(というかエマーソンやグレッグはその流動現象で常に震源地近くにいたりします)。勿論、他のロックやジャズでもバンドの離合集散はあることなのですが、プログレでは更にもう一つ特徴があるのです。それは、「喧嘩別れ」が少なく、例えそうであってもしばらくするといつの間にかまた仲良くセッションし始める、という点。つまり、彼らはあくまでもその時々で自身の目指す表現やスタイルをテーマに集い活動するのだけど、決して固着することはないのです。けれども互いの演奏技術や創造性は尊敬し合っているから、「プログレ」という大きな輪の中ではみな和気藹々活動しているということなのだと思います。

あれ? そんな話ってどこかで聞いたことがあるような…当ブログの読者ならそう思われる方も多いはず(今回もこのフレーズで〆ます ^^;)。そうです、現在コワーキング界で起こっているムーブメントとまさに同じなのです。

コワーキングスペースが続々誕生している今、よく外部の方からお話されるのが「こんなに増えてくるとメンバーの取り合いになりませんか?」ということです。確かに、経堂 PAX Coworking のメンバーの皆さんも、経堂だけに固着していることはありません。既存のビジネス観に照らせばとても心もとないことと見えるのかもしれませんね。
でも実はこの「流動性」こそが、コワーキングが持つ潜在的なポテンシャルではないかと私は考えています。その光景は、まさにプログレ界の「離合集散」とそっくりですし、プログレがそうであるように、コワーキングの世界でも流動性が新しい発想や創造を生み出す原動力になっていると思うのです。
私たちはあまりに長きにわたって「固着したコミュニティ」に依存し、その必要性を過信してきたように思います。そんな「価値観の固着」を振り捨てて、自由な発想と好奇心を糧に世界を見直してみればそこには新しい仲間や可能性が無限に広がっていることに気付くのではないでしょうか。そう考えると、NHK大河ドラマ「平清盛」の物語も同様のテーマで源平合戦の世界が再構成されていることに気付きますし、その劇中歌としてプログレの歴史的名曲「Tarkus」が使われているという偶然にも新鮮な驚きを感じることができるかもしれませんね。

「Tarkus」 お薦めの名盤
エマーソン・レイク&パーマー「Tarkus」
吉松隆「タルカス~クラシック meets ロック」