いよいよ花粉シーズン到来で微熱気味の大塚が今週もBookbiz Wednesdayとして一冊の本を紹介します。ちょうど日経新聞電子版でも連載が始まったサイゼリヤの創業者 正垣泰彦さんの話をピックアップしました。


"サイゼリヤ革命―世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話" (山口芳生)

■コストパフォーマンスが高いサイゼリヤ

実はこの本ですが、所謂ビジネス書を出している出版社ではなく、主に「食の本」を中心に出版している会社のものなので目に触れている方は少ないと思います。しかし、中身は下手なビジネス書よりも充実していて、さらに著者のインタビュー力が素晴らしく、そういう目線で見ても貴重な一冊に仕上がっています。

今でこそ街のあちこちに店舗を構えるサイゼリヤ、そのコストパフォーマンスの高さには多くの方がビックリしていると思います。僕も月に2-3回は利用しているリピーターの一人です。そして、今のようなファミレス形式になる前の街の小さい安価なイタリアンレストランだった時代から利用し続けています。今から30年近く前、柏駅東口にあったサイゼリヤは夜ともなればいつも若者で混雑していた店でした。味は本格的なのに値段はお手頃、一品の量が少なめなのでいろいろな種類の料理を楽しめる魅力があり、少ないバイト代で楽しむには絶好のお店でした。

■お客さんの喜ぶ姿を見るために実施した奇抜な戦略

きっとサイゼリヤを利用したことがある人は一度は食べたことがあるメニューが「ミラノ風ドリア」でしょう。僕も大好きなメニューの一つです。美味しいのはもちろんのこと、このメニューの最大の魅力はその値段。昔から人気があったようで、本書の中のインタビューでは、

’99年のメニューの価格改定で一番売れているミラノ風ドリアを290円にした(今は299円のはず)。

と語っている。その理由は正垣さんの理念でもある「お客さんが喜んでいる姿」を見たいがため。さらに続く正垣さんの言葉は、

(ミラノ風ドリアを値下げした理由の説明として)

「なぜなら一番うれているから。その商品が売れるのは、それを食べたお客さんが喜んでいる証拠でしょ。一番売れるってことは、一番喜んでもらっているということだから、それを安くすればもっと喜んでもらえるってことじゃない。それ以外の理由はないですよ」

(中略)

「お客さんが喜ぶんだから、逆に最高なんだよ。お客さんに喜んでもらうことがチェーンストアのビジネスにおける優先順位の第一であって、利益を出すことは一番じゃないんだから」

普通に考えたら気が狂っているとしか思えない。普通はドラッグストアのように「客寄せの商品を用意して、他では利益を確保しますよ」的なビジネスモデルは存在しているけど、本当に客寄せではなく企業努力で利益を生み出す構造にしてしまうところがビックリなところ。

■「おいしさ」とは

「おいしさって何なのか。これを説明するのはすごくむずかしい。だから、何とか数値に置き換えたいと考えてきたけど、おいしさとは、客数が増えることではないというのが僕らのたどり着いた仮説。その商品に価値を感じるのならたくさん売れるし、そういう商品が揃っていれば客数が増える。簡単なことなんだよ」

この言葉は非常に印象的で、今でも時々読み返しながら今の自分を振り返ったりしています。

サイゼリヤ未体験の方も本書を読むときっと試したくなるはずです。それはサイゼリヤというユニークな会社もそうですが、取材とインタビュー、そして高度な構成力で作られた本書の作品としてのレベルの高さだと思っています。騙されたと思って一度読んでみてください。